脂質異常症診療の流れ 日本赤十字社医療センター糖尿病内分泌科 吉次通泰先生

1. 脂質異常症診断のきっかけ

脂質異常症では特徴的な症状に乏しく、健診や他の疾患で行った血液検査で発見されることが多いです。
次のような場合、脂質異常症の可能性があり、血液検査を行います。

  1. 現在あるいは過去に肥満が存在するとき
  2. 脂質異常症あるいは動脈硬化性疾患 (冠硬化症、脳動脈硬化症、下肢動脈閉塞症など) の既往歴や家族歴があるとき
  3. 高コレステロール食品、甘い物、果物の摂取量が多いとき
  4. 飲酒量の多いとき
  5. アキレス腱の肥厚、眼瞼や手の黄色腫、角膜輪などの身体所見を認めるとき

検査について

2. スクリーニングのために行う血液検査

早朝空腹時 (少なくとも10時間の空腹) に 1. か 2. のどちらかの組み合わせで血液検査をします (保険上、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールを併せて測定した場合は 主たるもの2つの所定数を算定)。

最近、食後の脂質異常症、特に、高トリグリセリド血症が レムナント様リポ蛋白分画の停滞、小型高比重LDLの出現、HDLコレステロールの低下を引き起こし、 動脈硬化と密接に関係することが注目されており、食後の脂質検査が必要なこともあります。

  1. 総コレステロール (TC)、トリグリセリド (TG)、HDLコレステロール (HDL-C)

    この場合、LDL-Cは、TC - (HDL-C) - TG/5のFriedewaldの式から求めます (TG<400mg/dLのとき適用)。
    nonHDLコレステロールは、TC - (HDL-C) から求めます。

  2. LDLコレステロール、トリグリセリド (TG)、HDLコレステロール

いずれかの項目が下記のように診断基準を外れていれば脂質異常症と診断します。

今回改定された動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012では、 新たにnonHDLコレステロールが脂質管理目標値として導入されました。

高コレステロール血症 220mg/dL以上
高LDLコレステロール血症 140mg/dL以上
高トリグリセリド血症 150mg/dL以上
低HDLコレステロール血症 40mg/dL未満
高nonHDLコレステロール血症 170mg/dL以上

3. 脂質異常が存在するとき次に行う血液検査

  1. 超遠心法あるいは電気泳動法によるリポ蛋白解析で脂質異常症の病型を決めます (表1)。
    脂質異常症の分類 (表1)
    病型 増加するリポ蛋白 血清脂質
    コレステロール TG
    カイロミクロン ↑↑↑
    IIa LDL ↑↑
    IIb LDL, VLDL ↑↑
    III レムナント (IDL)
    IV VLDL ↑↑
    V カイロミクロン
    VLDL
    ↑↑ ↑↑↑

    脂質異常症には、原発性と続発性 (二次性) とがあります (表2)。

    脂質異常症の分類 (表2)

    原発性脂質異常症
    1. 原発性高カイロミクロン血症
      1. 原発性LPL欠損症
      2. アポC II欠損症
      3. 原発性V型脂質異常症
      4. その他
    2. 原発性高コレステロール血症
      1. 家族性高コレステロール血症
      2. 家族性複合型脂質異常症
    3. 内因性高トリグリセリド血症
      1. 家族性Ⅳ型脂質異常症
      2. 特発性高トリグリセリド血症
    4. 家族性III型脂質異常症
    5. 原発性高HDLコレステロール血症
    続発性脂質異常症
    1. 高コレステロール血症

      甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、原発性胆汁性肝硬変、 閉塞性黄疸、糖尿病、クッシング症候群、薬剤 (利尿剤、β遮断薬、 コルチコステロイド、経口避妊薬、サイクロスポリン)

    2. 高トリグリセリド血症

      飲酒、肥満、糖尿病、クッシング症候群、尿毒症、SLE、血清蛋白異常症、 薬剤 (利尿剤、非選択性β遮断薬、コルチコステロイド、エストロゲン、レチノイド)

  2. 続発性を否定するために行う血液・尿検査
    1. 血糖値、HbA1c (糖尿病による脂質異常)
    2. TSH, 遊離T3, 遊離T4 (甲状腺機能低下症の高コレステロール血症)
    3. 尿蛋白、血清クレアチニン、BUN, eGFR (ネフローゼによる高コレステロール血症)
    4. AST, ALT, ALP, LAP, γGTP (胆道閉塞時の高コレステロール血症)
    5. 副腎皮質ホルモン (クッシング症候群の脂質異常)

4. スクリーニング後に行う検査

  1. 病態を把握するために行う精密検査
    アポリポ蛋白(AI,AII,B,CII,CIII,E) new window

    リポ蛋白の蛋白成分であるアポ蛋白には、 HDLに結合しているアポAI,AIIが、LDL,IDL,VLDLに共通に存在するアポBが、 VLDLに結合しているアポCI,CII,CIIIがあります。

    アポEは主にIDLに結合しています。 アポ蛋白が脂質粒子に結合することにより種々の機能を持つようになります。

    アポリポ蛋白の測定は、まれな脂質異常症の診断に有用です。
    たとえば、アポCIIはI型高リポ蛋白血症がLPL欠損かアポCII欠損かの鑑別に使えます。
    アポBは脂質運搬の担体ですが、 アポB48は腸管で吸収された脂質を運搬するリポ蛋白の構成要素であり、 小腸由来のリポ蛋白代謝を知るのに有用です。

    LP (a) new window

    LDLのアポB100にアポ (a) が結合したリポ蛋白であり、 高LP (a) 血症は脳血管や冠動脈の動脈硬化の危険因子です。 個人の血清濃度は遺伝により一定しており、 他の血清脂質と相関せず、治療に反応しないのが特徴です。

    LPL(リポプロテインリパーゼ) new window

    血中にあるリポ蛋白のトリグリセリド分解酵素には、 LPLと肝性トリグリセライドリパーゼとがあります。 血中リポ蛋白であるVLDL、IDL、HDLのトリグリセリドやリン脂質を分解し、 その異常は高中性脂肪血症を生じます。LPL欠損症はI型高脂血症を示します。

    RLPコレステロール
    (レムナント様リポ蛋白コレステロール) new window

    カイロミクロンやVLDLのトリグリセリドが分解されて小さくなった粒子である RLPコレステロールは動脈硬化を起こしやすく、冠動脈疾患の危険因子です。

    LCAT
    (レシチンコレステロール
    アシルトランスフェラーゼ) new window

    血中でレシチンの脂肪酸を遊離コレステロールにエステル結合させる酵素です。 この低下はHDL-Cの低下を生じるので低HDL-C血症の鑑別に測定します。 LCAT欠損症では血中のコレステロールエステルは低値となります。

    LCATは肝臓で合成される酵素であり、肝機能障害でも低下し、 肝臓の蛋白合成能としても使用できます。

  2. 動脈硬化の存在を反映する検査
    高感度CRP、SAA、 IL-6

    CRPは単なる炎症マーカーでなく、動脈硬化との間に相関関係があります。

    動脈硬化は血管炎症を背景に生じるとされており、 重篤な動脈硬化へ進展する予測因子としてだけでなく、 血管合併症の予防効果判定に高感度CRP測定が有用です。 食事療法、運動療法、体重減量、脂質異常症の治療薬投与などがCRPを低下させます。

    その他の炎症マーカーには、血清アミロイドA蛋白 (SAA) と インターロイキン6 (IL-6) があり、 心血管イベント発症の危険因子として有用です。

    ホモシステイン new window

    メチオニンからメチル基を転送中に作られる中間物質です。
    血中ホモシステインの増加は動脈硬化を進展させるとの報告がありますが、 喫煙者、甲状腺機能低下症、悪性貧血、プソリアシスなどでも高値となります。

    小型高比重LDL

    小型高比重LDLは大型高比重LDLにくらべて動脈硬化性が強く、 メタボリック症候群、2型糖尿病で増加します。 小型高比重LDLが増加してもLDL-Cの増加は大きくないので、 動脈硬化が疑われる症例では測定する意味があります。 特に、冠動脈疾患のリスクファクターです。

    酸化LDL (MDA-LDL) new window

    LDLが高濃度であるだけでは動脈硬化を起こすわけではなく、変性LDLが問題なのです。 変性LDLの代表である酸化LDLは動脈硬化の発症に重要な役割を演じ、 特に、malondialdehyde-modified LDL (MDA-LDL) は 冠動脈疾患既往に関する予後予測のマーカーとして測定意義があります。

    足首・上腕血圧比 (ABI)
    動脈脈波速度 (PWV)

    ABIは重症粥状硬化による血管の狭窄ないし閉塞を反映し、 PWVは動脈の硬化度を反映します。

    サーモグラフィ

    体表温度を示し、末梢の循環状態を観察できます。

    血管内皮機能

    動脈硬化は血管内皮機能障害から始まるので、 血管内皮機能を評価することでハイリスク患者の早期発見・早期対処が可能となり、 心血管イベントの予防につながります。

    測定法には侵襲的なプレティスモグラフィ (末梢の循環状態を評価することができ、 加速度脈波は動脈硬化度を反映) と 非侵襲的な超音波による血管径測定などがあります。

    頸動脈超音波検査

    動脈硬化の指標である内膜中膜肥厚度 (IMT)、プラークスコア、プラーク性状の評価、 頸動脈の狭窄度、血流波形により動脈硬化の存在を推測します。

    CT検査、MRI,MRA検査
    (脳血管、冠動脈、
    大動脈、下肢動脈など)

    脳血管、冠動脈、大動脈、下肢動脈のカルシウム沈着、狭窄、閉塞を診断します。

5. 患者カテゴリーと管理目標から見た治療方針

LDLコレステロールの上昇、HDLコレステロールの低下、トリグリセリドの上昇 あるいはnonHDLコレステロールの上昇とともに動脈硬化性疾患、 特に冠動脈疾患の発症率が上昇するというエビデンスがありますので治療が必要になります。

LDLコレステロールの管理目標の設定は、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版では 次のような流れになります。

  1. 冠動脈疾患の既往の有無を確認し、既往ありの場合は二次予防として 生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮します。
  2. 冠動脈疾患の既往がなく、糖尿病・慢性腎臓病 (ステージIII以上) ・非心原性脳梗塞・末梢動脈疾患のいずれかがある場合は、 管理区分を今後10年間の冠動脈疾患死亡率2%以上のカテゴリーIII (高リスク群) とします。
  3. 上記 2. に該当しない場合は、冠動脈疾患の一次予防のための絶対リスクに基づく管理区分に従い 管理区分を設けることとなりました (今後10年間の冠動脈疾患死亡率0.5%未満のカテゴリーIと0.5%以上2%未満のカテゴリーII)

低HDLコレステロール血症、早発性冠動脈疾患既往歴、耐糖能異常のいずれかがあれば、 カテゴリーがIはIIに、IIはIIIになります。

絶対リスクに基づくリスクの層別化を行った後に、表3の2007年版のようにリスクに応じた治療方針を決めます。

2012年度版では、LDLコレステロールの脂質目標管理値は2007年版と変わりありませんが、 nonHDLコレステロールが追加され、I (低リスク) は、190mg/dL未満、II (中リスク) 170mg/dL未満、 III (高リスク) 150mg/dL未満、冠動脈疾患既往の場合は、130mg/dL未満となりました。

リスク別脂質管理目標値 (表3)
治療方針の原則 カテゴリー 脂質管理目標値 (mg/dL)
LDL-C以外の
主要危険因子
LDL-C HDL-C TG
一次予防

まず生活習慣の改善を行った後,薬物治療の適応を考慮する

I
(低リスク群)
0 <160 ≧40 <150
II
(中リスク群)
1-2 <140
III
(高リスク群)
3以上 <120
二次予防

生活習慣の改善とともに薬物治療を考慮する

冠動脈疾患の既往 <100

脂質管理と同時に他の危険因子 (喫煙,高血圧や糖尿病の治療など) を是正する必要がある。

*LDL-C 値以外の主要危険因子
加齢 (男性≧45歳,女性≧55歳),高血圧,糖尿病(耐糖能異常を含む), 喫煙,冠動脈疾患の家族歴,低HDL-C血症 (<40 mg/dL)

  • 糖尿病,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症の合併はカテゴリーⅢとする。
  • 家族性高コレステロール血症については別に考慮する。
SRL総合検査案内 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007 年版より

薬物療法について

6. 薬物療法

通常、3~6か月間食事療法、運動療法を行い、改善しない場合に薬物療法を行いますが、 2012年度版では3~6か月間という期間が削除されています。

LDL-Cが
高値の場合
  1. HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が第一選択薬です。
    プラバスタチン (メバロチン)、シンバスタチン (リポバス)、 フルバスタチン (ローコール)、アトルバスタチン (リピトール)、 ピタバスタチン (リバロ)、ロスバスタチン (クレストール) などがあります。
    後三者のLDL-C低下作用は強力です。
    スタチンの作用機序はコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を阻害 → 肝内コレステロール合成抑制 → 肝臓へLDLコレステロール取り込み増加 → LDL-C低下です。
  2. 前三者で効果不十分な場合には、増量するか後三者のより強力なスタチンに変更します。
  3. それでも効果不十分な場合には、スタチンに 陰イオン交換樹脂 (クエストラン、コレバイン) あるいは小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 (ゼチーア) を併用します。
    2012年度版では、スタチンとイコサペント酸エチル (EPA) との併用を推奨しています。
  4. それでも効果不十分な場合には、スタチン+陰イオン交換樹脂あるいは 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬+プロブコール (シンレスタール、ロレルコ) を使用します。
  5. スタチンが副作用のため使用できない場合には、 プロブコール (シンレスタール、ロレルコ) を使用します。 LDL-C低下作用は弱く、HDL-Cも低下することが多いのが欠点です。
    プロブコールの作用機序はLDLの異化亢進、リポ蛋白合成抑制、 コレステロールの胆汁への排泄促進などです。
  6. そのほかニコチン酸誘導体 (ユベラN、ペリシット、コレキサミン) も有効ですが、 効果は弱いと思われます。
    作用機序は遊離脂肪酸動員抑制、肝臓でのVLDL合成抑制、LPL活性亢進などです。
TGが
高値の場合

フィブラート系薬 (ベザトールSR、リピディル、ビノグラック、リポクリン) が第一選択薬です。

作用機序は核内PPARα受容体の活性化によるLPL、肝性TGリパーゼ活性亢進、 カイロミクロン、VLDL、IDLの異化促進、肝臓の脂肪酸合成抑制、脂肪酸酸化促進などです。

フィブラート系薬が効果不十分な場合には、 ニコチン酸誘導体あるいはEPA (エパデール) に変更するか併用します。

LDL-C、TGともに
高値の場合

TGが軽度高値の場合には、スタチン単独療法を行います。

TGが著明高値な場合には、スタチンとフィブラート系薬 あるいは小腸コレステロールトランスポーター阻害薬の併用療法を行います。

他疾患合併脂質異常症の薬物療法
腎疾患

慢性腎臓病 (CKD) を合併する脂質異常症をスタチンなどで治療すると、 心血管疾患のリスクが低下し、蛋白尿減少や腎機能低下の予防効果が現れます。
ただ、副作用防止のため薬剤投与量の減量などに注意する必要があります。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬は胆汁排泄性であり、 腎障害がある場合にも通常量が使用できます。

糖尿病

糖尿病合併脂質異常症に対しても心脳血管性イベントをスタチンが低下させます。
フィブラート系薬剤にも糖尿病細小血管症を減少させるとの報告もあります。 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬をスタチンと併用して 有効性が増すことがあります。
糖尿病合併脂質異常症に対しても積極的に使用すべきです。

血糖コントロール指標は、2012年度版では、 HbA1c (NGSP) < 6.9%、HbA1c (JDS) < 6.5%、FBS < 130mg/dL、食後2時間血糖値 < 180mg/dLを 目標値としています。

高齢者

加齢とともに動脈硬化性疾患の頻度は増加します。
高齢者でもLDL-C上昇とともに冠動脈疾患死亡が増加するため 65~75歳未満ではLDL-C低下のために薬物療法を行います。 投与量は腎機能を考慮して決める必要があります。

75歳以上ではLDL-Cと冠動脈疾患死亡との間に相関がないとの報告が多く、 積極的な薬物療法は行いません。

更年期以降
の女性

女性は閉経後に冠動脈疾患のリスクが上昇しますが、 男性よりリスクは低いです。
脂質低下療法により冠動脈疾患イベント発症を抑制するとの報告がありますが、 イベント発症の頻度が低く、薬物療法のメリットとデメリットを考慮して 治療方針を決める必要があります。

2012年度版では、閉経前では絶対リスクが低く、 管理目標値に達していなくても生活習慣の是正のみで経過を観察できるとされています。

7.副作用

横紋筋融解症

筋肉障害には、

  1. 筋肉痛や筋力低下を認めるがCK上昇を伴わないもの、
  2. 正常値上限の10倍以内のCK上昇と筋肉痛を伴うもの、
  3. 正常値上限の10倍以上のCK上昇とミオグロビン尿と腎機能障害を伴う横紋筋融解

の3つがあります。

  • スタチンあるいはフィブラート系薬、特に両者を併用する場合の最も重大な副作用であり、 腎機能障害のあるときに起きやすいので注意が必要です。 副作用が起こったらすぐに服用を中止します。
  • クレアチニン1.5mg/dL以上では減量あるいは 使用に注意 (あるいは併用を避ける) します。
  • 筋肉痛や脱力が強い場合やCKが400~500U/L以上の場合には、 小生は安全のために中止しています。 定期的に血清脂質検査と同時にCK検査を実施します。
肝障害
  • スタチンあるいはフィブラート系薬ともに起きます。
  • 肝障害は投与開始後6か月以内に起こるのが大部分であり、 投与中止あるいは減量により速やかに改善します。
  • 通常量より高用量投与例で肝障害の頻度が高いです。
顔面紅潮、頭痛

ニコチン酸誘導体で出現しますが、継続投与していると消失することが多いので、 患者様によく説明すれば中止する必要はありません。

妊娠

すべてのスタチンは使用禁忌です。