はじめに

今や、全国民の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患しているといわれています (平成23年8月厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」)。

食物アレルギーの治療管理の原則は、正しい診断に基づいて、必要最低限の原因食物を除去することです (食物アレルギーの診療の手引き 2012より)。
過度な食餌制限は、発育障害の原因になるため正確な原因アレルゲンの診断が重要になってきます。

食物アレルギー診断のゴールドスタンダードは食物経口負荷試験 (以下負荷試験) ですが、 患者さんへの負担が大きく、アナフィラキシーショックを引き起こすなどのリスクもあります。

今回は、アレルゲンの同定の補助診断としてin vitro検査のアレルゲン刺激性遊離ヒスタミン (HRT) について、ご紹介します。

アレルゲン刺激性遊離ヒスタミン(HRT)

HRT (Histamine Release Test) は、「(好塩基球) ヒスタミン遊離試験」とも言われているI型 (即時型) アレルギーの検査です。

HRTでは、採取した血液中から分離した好塩基球という細胞にアレルゲンを添加し、 そのとき放出されたヒスタミンの量を測定し、アレルゲンに対する反応性を見ています。

HRTの測定原理

測定原理のイメージ 引用:協和メデックス株式会社

特異的IgE検査は、血液中の特異的IgEの抗体量を検査するのに対し、 HRTでは、特異的IgE抗体と結合した細胞 (好塩基球) が原因アレルゲンと反応して、 アレルギー症状を引き起こす原因物質であるヒスタミンを遊離したかどうかを検査するので、 同じin vitroの検査でありながら、特異的IgE検査よりも生体内の反応をより的確に反映するという特徴があります。
また、採取した血液を調べるため、アナフィラキシーショックなどの危険性がある負荷試験よりも安全に実施ができます。

特異的IgE HRT 負荷試験
in vitro in vivo
侵襲性 少ない
(採血のみ)
あり
(アナフィラキシーなど)
特徴

原因アレルゲンではなく、感作の有無を表現している

生体内の反応をIgEより、反映した検査

臨床症状と完全に一致

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特異的IgEとの比較

HRTと特異的IgE検査の比較
HRT (ヒスタミン遊離試験) 特異的IgE
測定意義

in vivo (生体内) では、人体で起こる反応を直接観察することが出来るが、重症な副作用をきたす危険性もある。 特異的IgEは、安全に検査できるが、臨床症状を反映しない場合がある。

HRTはin vitro (試験管内) でI型アレルギーを確認する検査である。 食物負荷試験は、熟練医師の監督下で実施する必要があるが、この検査は採血のみでリスクの予測が可能である。

特異的IgEには無い、ヒトの汗に対するアレルゲンがある。

I型アレルギーはIgE依存型と呼ばれ、IgEが大きく関与するアレルギー反応である。
アレルギー患者における生体内の原因アレルゲンの同定及びそれに基づいた アレルゲンの除去・回避等の原因療法に利用されている。

抗体種が約190と大変多くのアレルゲンがある。

測定原理

好塩基球に含まれる総ヒスタミン量を用いてヒスタミン遊離率を算出し、20%をカットオフとする。

アレルゲンの濃度順に5系列の遊離率を算出し、各々の遊離率を折れ線グラフで結んだ遊離曲線、及び カットオフ値から判断したクラス分類により解釈する。

アレルゲンを結合したスポンジと検体中の特異的IgEを反応させ、その複合物を標識抗体と反応させ抗体量を測定。 血清中のアレルゲンに対する特異的免疫グロブリンE (IgE) 量を測定。抗体濃度によりクラス判定を行う。

検出標的 好塩基球 血清中IgE抗体
検査材料 EDTA-2Na加血液 各セット2.0mL 血清 各0.3mL
測定方法 細胞反応測定法 FEIA
検体保存日数 冷蔵 3日 冷蔵 7日
(7日以内に測定出来ない場合は-20℃以下で保存)
測定抗原数 少ないがオバルブミン・汗はHRTのみ 約190種
報告形態 総ヒスタミン遊離量 (nmol/L)
クラス 判定
4 陽性
3
2
1 擬陽性
0 陰性
クラス 特異的IgE抗体価 (UA/mL) 判定
6 100以上 陽性
5 50.0~99.9
4 17.5~49.9
3 3.50~17.4
2 0.70~3.49
1 0.35~0.69 疑陽性
0 0.34以下 陰性
実施料 各168点 上限1430点 各110点 上限1430点
同時算定可能ですが、HRT・特異的IgE併せて上限1430点
判断料 免疫学的検査判断料144点
参考:各試薬説明書より

HRTが有用と考えられる症例

HRTはin vitroの検査でありながら、 in vivoにおけるアレルギー反応を最もよく反映する検査であるとされています (HRT試薬添付文書)。そのため、以下のような場合にHRTが有用と考えられます。

  1. 重篤な症状の患者さんに

    食物を負荷することで強い症状を誘発するリスクが高いと思われる患者さんの場合は、 負荷試験を行わずに抗原診断の補助検査として使用できます。

  2. 耐性獲得の推定のために

    アナフィラキシーショック既往がある鶏卵、牛乳、小麦アレルギー児の耐性獲得確認の負荷試験を実施したところ、 負荷試験が陰性の症例では、特異的IgE検査は陽性、HRTは陰性でした。

    つまり、I型アレルギーの既往歴がある患者さんでは特異的IgEの結果に改善がみられなくても HRTを実施することで耐性獲得の可能性を予測することができます。 この情報を活用して、負荷試験実施の決定の参考になります。

    負荷試験実施前の確認検査として定着してきています。

  3. 汗アレルギーの患者さんに ~アトピー性皮膚炎の原因特定に~

    HRTで測定できるアレルゲンとして特徴的なものに「ヒト汗」アレルゲンがあります。 特異的IgE検査にないアレルゲンなので、あまり聞きなじみがないアレルゲンかもしれません。

    アトピー性皮膚炎の患者さんでは、ヒト汗抗原に対して陽性を示す患者さんが約8割もいるという報告があります (Tanaka A, et al:Exp Dwematol 15: 283-290, 2006)。 アトピー性皮膚炎では、自分の汗に過敏に反応し、皮膚症状が悪化すると言われていましたが、 最近、この「ヒト汗」のアレルゲンの正体は、健常人にも常在するカビの一種が産生する蛋白である事がわかり話題になりました。

    ヒト汗アレルゲンが陽性の患者さんには、まめにシャワーを浴びるなどのスキンケアをお勧めすることができます。

保険適用の概要

HRTは、「アレルゲン刺激性遊離ヒスタミン (HRT)」として、検体検査実施料が1アレルゲンあたり168点認められています。 検体検査判断料は免疫学的検査判断料144点です。特異的IgEと合わせて1430点まで算定することができるため、 特異的IgE5項目とHRT5項目が同時に実施可能です。

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受託要綱

項目コードNo. 6479 0 6480 0 6481 7
検査項目名 アレルゲン刺激性遊離ヒスタミン (HRT)
乳幼児期用食物 学童・成人期用食物 アトピー性皮膚炎
検体量 血液 2.0mL
容器 容器C
C (EDTA-2Na入り)
保存方法 冷蔵保存してください。
所要日数 3~5日
検査方法 細胞反応測定法
基準値 (単位) 下記判定基準参照
実施料 840点(各168点×5)
(D015「血漿蛋白免疫学的検査」の16)
判断料 144点 (免疫学的検査判断料)
備考 曜日指定

凍結保存は避けてください、検体は採取後、当日中にご提出ください。 他項目との重複依頼は避けてください。受託可能日は、月~金曜日です。
判定基準、アレルゲン一覧表は下記をご参照ください。

アレルゲン刺激性遊離ヒスタミン (HRT) (判定基準)

クラス 判定
4 陽性
3
2
1 擬陽性
0 陰性

アレルゲン刺激性遊離ヒスタミン (HRT) アレルゲン一覧

項目コードNo. 検査項目名 含まれるアレルゲン
6479 0 HRT乳幼児期用食物 卵白、オボムコイド※、オバルブミン※、牛乳、小麦
6480 0 HRT学童・成人期用食物 ソバ、ピーナッツ、エビ、カニ、ゴマ
6481 7 HRTアトピー性皮膚炎 ヒト汗、ヤケヒョウヒダニ、ネコ上皮、イヌ皮屑、カンジダ

※オボムコイドは、卵白中の主要タンパク質で、卵白アレルギーの成分のひとつです。
熱の影響を受けにくい耐熱性のタンパク質です。 耐熱性があるので、陽性の場合は、加熱した卵(固ゆで卵)でもアレルギー症状を起こす可能性があります。

オバブルミンも卵白中のタンパク質です。加熱により凝固し抗原性が低下しますので、 オバブルミンが陽性でも、加熱した卵は摂取できる可能性が高いと言われています。

報告書サンプル

報告書サンプル

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