副作用面から見たDPP-4阻害薬使用上の注意 日本赤十字社医療センター 糖尿病内分泌科 吉次通泰先生

消化管ホルモンであるGIP、GLP-1の分解を抑制することによりインクレチン作用を増強させ、 高血糖を調節するDPP-4 (dipeptidyl peptidase 4) 阻害薬は、 わが国で2009年12月にシタグリプチン (ジャヌビア、グラクティブ) が登場して以来、 ビルダグリプチン (エクア)、アログリプチン (ネシーナ)、リナグリプチン (トラゼンタ)、 テネリグリプチン (テネリア)、アナグリプチン (スイニー)、サキサグリプチン (オングリザ) が 次々と使用されるようになりました。

単独投与では肥満や低血糖を起こすことなく高血糖を改善するだけでなく、 膵臓β細胞の保護作用を有する可能性があるという 好い事ずくめで使用頻度が急速に増加しており、 2型糖尿病の第一選択薬の一つになりつつあります。

しかし、DPP-4阻害薬の副作用として、当初からその代謝・排泄経路から 腎障害、肝障害については注意が喚起されておりましたが、 DPP-4阻害薬には多くの膵外作用 (心血管系、骨代謝、免疫系など) があり、 長期投与による新たな副作用出現に注意をしなければならなくなりました。

DPP-4阻害薬の代謝・排泄経路 (表1)
DPP-4阻害薬の代謝・排泄経路 (表1) 出典 : 各添付文書より (MSD (株)、小野薬品工業 (株)、ノバルティス ファーマ (株)、武田薬品工業 (株)、
日本ベーリンガーインゲルハイム (株)、田辺三菱製薬 (株)、(株) 三和化学研究所)

DPP-4阻害薬の代謝・排泄経路には主に腎臓から排泄されるものと 主に肝臓を含めた全身の臓器で代謝されるものとがあり、 合併症を有する糖尿病でDPP-4阻害薬を使用する場合に注意が必要です。

シタグリプチン、アログリプチン、アナグリプチンは未変化体が主に腎臓から排泄され、 腎機能に応じて減量する必要があります。

ビルダグリプチンは主に肝臓で代謝され、未変化体からの排泄は少ないので、 中等度以上の腎障害でも慎重にではありますが、使用可能です。透析時でも使えます。
しかし、肝臓で代謝されるため重症肝障害ではビルダグリプチンは禁忌です。

胆汁排泄型のリナグリプチンや肝臓代謝と腎排泄の両者であるテネリグリプチンは、 腎機能障害合併例でも投与量を調節することなく使用できます。

各種疾患を合併した糖尿病でのDPP-4阻害薬使用時に注意が必要な具体例

[症例1]:65歳 男性 2型糖尿病+脂質異常症+脂肪肝

2010年1月21日よりダオニール (2.5mg) 3錠、アクトス (30mg) 1錠にて加療中でありましたが、 血糖コントロール不良なため、2010年4月1日よりシタグリプチン (50mg) を追加しました。
11月から急に便秘となったため、12月15日に大腸内視鏡検査を施行しました。
盲腸に白苔を伴い、周囲が浮腫状に隆起した潰瘍を認め、生検でアメーバ赤痢と診断しました。
海外渡航歴や同性愛なく、HBAg (-)、HCVAb (-)、HIVAb (-)、Wa-R(-)であり、 フラジール (250mg) 6錠にて治癒しました。

症例1 出典:日本赤十字社医療センター

コメント: DPP-4阻害薬の副作用として、消化管ホルモンの1つであるGLP-1の持続高値は, 胃排泄抑制や便秘あるいは下痢などの消化器作用を起こすことは予想されていましたが、 本例は、DPP-4阻害薬服用がきっかけでアメーバ赤痢を発見する機会になった症例です。
服用直後でなく、急に起こった便秘の場合、一度、大腸内視鏡検査を行う必要があることが示唆されました。

また、DPP-4阻害薬は免疫系に影響する可能性が報告されており、 DPP-4阻害薬服用中は各種感染性疾患のほか悪性腫瘍の発生を常に念頭に置いておく必要があります。

[症例2]:64歳、男性 2型糖尿病+高血圧

2010年8月12日よりビルダグリプチン100mg投与にて血糖コントロールは改善していましたが、 2011年11月より便秘が高度になり、シタグリプチン (血糖コントロール悪化) → アログリプチン (血糖コントロール改善) に変更し、便秘も解消し、服用を持続できております。

症例2 出典:日本赤十字社医療センター

コメント: DPP-4阻害薬の種類を変更することにより、便秘の症状が解消し、治療を継続することができます。
しかし、変更により血糖コントロールが不十分となり、 DPP-4阻害薬以外の他薬剤を併用することが必要になることもあります。

[症例3]:57歳、女性 2型糖尿病+脂肪肝

2011年1月27日よりビルダグリプチンン100mg、グルメピリド5mg、 ボグリボース、メトホルミン、インスリングラルギンにて血糖コントロールは良好でしたが、 この頃併用不可であったため、シタグリプチン50mgに変更しました。

2か月後から血清トランスアミナーゼ活性がAST 40 ~ 60 IU/L、ALT 60 ~ 70 IU/Lであったものが、 徐々に上昇し、2012年9月27日にはAST 77 IU/L、ALT 168 IU/Lまで上昇したため、シタグリプチンを中止しました。
その後、徐々に低下し、2013年2月7日にはAST 35 IU/L、ALT 61 IU/L、 4月4日にはAST 20 IU/L、ALT 36 IU/Lとなりました。

経過中、血糖コントロールに大きな変化はなく、体重はシタグリプチン服用中、減少傾向にあり、 脂肪肝の悪化とは考えにくいと思われました。

症例3 出典:日本赤十字社医療センター

コメント: DPP-4阻害薬は肝障害を合併している場合、 ビルダグリプチンやテネリグリプチンでは注意~禁忌とされていますが、 2型糖尿病では脂肪肝を伴っていることが多く、 軽度~中等度の肝障害でも使用できないと使用例が少なくなってしまいます。
また、肝障害の重症度を何で判断するのかが明示されておりません。

本例では脂肪肝を合併した糖尿病でDPP-4阻害薬投与後肝機能検査の悪化が起こりましたが、 やはり脂肪肝を合併しておりました症例1では、 シタグリプチン、次いでビルダグリプチンと2種類のDPP-4阻害薬を使用しましたが、 どの薬剤も肝機能の悪化を起こしませんでした。

DPP-4阻害薬の種類というよりも患者様の体質により 肝障害の発生ないし悪化などの態度は異なることが示唆されます。
血糖関連検査と同時に定期的な肝機能チェックが必要に思います。

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まとめ

肝障害を合併する糖尿病

  • 高度肝機能障害を合併する場合には、インスリン強化療法が望ましいと思います (インスリン抵抗性があり、使用インスリン量が多くなる傾向があります)。
  • 高度の肝機能障害例では、肝臓で代謝されるビルダグリプチンは禁忌とされていますが、 そのほかのDPP-4阻害薬については明確な成績がありません。 ただ、テネグリプチンは注意しながら使用できるかもしれません。
    中等度肝障害例では半量のビルダグリプチン50mgで治療できますが、 そのほかのDPP-4阻害薬の使用ははっきりした記載はありません。 少ない経験ではありますが、定期的な肝機能検査を行えば使用することができるように思います。

腎機能障害を合併する糖尿病

  • 高度腎機能障害を合併する場合には、インスリン療法が望ましいと思いますが、 一般的には、少量のインスリン注射量で血糖コントロールは可能なことが多いと思います。
  • 高度腎機能障害を合併する場合でインスリン療法が行えないときには、 リナグリプチンあるいはテネリグリプチンを使用することとし、 血糖コントロールが不十分な場合には、ビルダグリプチンを半量にしてみるか、 あるいはアナグリプチン、シタグリプチンを1/4量に変更してみることを考慮します。
  • 中等度腎機能障害例では、リナグリプチン、テネリグリプチン、アナグリプチンをまず使用し、 効果が不十分な場合には、シタグリプチン、 アログリプチンあるいはビルダグリプチンを半量使用することを考慮します

腹部手術の既往を有する糖尿病でのDPP-4阻害薬

  • シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、 テネリグリプチンは慎重投与とされており、なるべく避けることが望ましいでしょう。
    どうしても使用する場合には、現在のところアナグリプチンを使用してみることになりますが、 発売後日が浅いため記載がないのかもしれません。
    小生の使用経験では、胃切除術後、婦人科手術後の患者様では使用可能と思われますが、 大腸手術後では使用を避けるようにしています。
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関連項目

項目コード 項目名称 意義
6404 5 ヘモグロビンA1c
(HbA1c) (NGSP) new_window

過去1~2ケ月間の血糖値を反映。長期間の血糖コントロールの指標として用いられます。

2517 9 グリコアルブミン new_window

グリコアルブミンは過去1-2週間と比較的短期間の平均血糖値を反映

0439 7 ALT (GPT) new_window

肝臓の中にある酵素で、肝細胞が破壊されると血中の濃度が上昇します。 ALTは肝細胞にしかありません。

0438 0 AST (GOT) new_window
6423 9 活性型 GLP-1 (抽出法) new_window

GLP-1とGIPは、食後、血糖依存的にインスリン分泌を促進して血糖の濃度を調節する作用を有しています。

6466 2 活性型GIP (抽出法) new_window
6467 0 活性型GIP (非抽出法) new_window
6486 3 総GIP new_window

今後は、DPP-4阻害剤の効果判定として、HbA1cやグリコアルブミンなどの血糖値を反映するマーカーの使用に加え、 インクレチンとして知られています活性型GLP-1や活性型GIP、総GIPなどを測定することで、 DPP-4阻害剤反応性の違いや副作用を研究する検査があります。

吉次先生のお話にありますようにインクレチンは分解酵素でありますDPP-4によって分解され、 血中半減期が短いことが知られていますので、インクレチン検査をご依頼いただく際にも、 指定の採血容器にDPP-4 inhibitorを加えていただき、 安定化した上、検査させていただいております。

また、インクレチン測定で注意を要する点として「インクレチン測定標準化委員会」より、 「ヒトにおけるインクレチン測定に関する指針」が発信されており、指針の中には 「活性型インクレチン測定には固相もしくはエタノール抽出による前処理を必須とする。」と記載されています。

SRLは唯一、開発した前処理をインクレチン測定標準化委員会に報告しており、指針を遵守した測定法を実施しています。

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