抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎について

こんにちは、Club SRL 武内優子です。

今日は、東京医科大学臨床医学系眼科学分野 准教授 毛塚剛司先生に、 「眼科で注目されている抗AQP4抗体陽性視神経炎について」と題して、 フローチャートを交えながら抗アクアポリン4抗体 (抗AQP4抗体) についてご解説いただいた内容をご紹介いたします。

ステロイドに抵抗性がある抗AQP4抗体陽性視神経炎では、通常の視神経炎と比較して視力予後が悪く、 抗AQP4抗体を測定することで治療初期に予後を推察することができます。

眼科で注目されている抗AQP4抗体陽性視神経炎について 東京医科大学臨床医学系眼科学分野 准教授 毛塚剛司先生

1. 眼科領域における抗アクアポリン4抗体について

毛塚剛司先生

抗アクアポリン4抗体 (抗AQP4抗体) は、 もともと視神経脊髄炎 (Neuromyelitis optica; NMO) に対する抗体として発見されました。 一方、NMOの初期病変として視神経炎があり、 この視神経炎はNMO spectrum disorder (NMOの単臓器病変) として認識されるようになりました。

一般的な視神経炎はステロイド点滴療法で軽快しますが、 NMO spectrum disorderである視神経炎ではステロイド治療に抵抗し、抗AQP4抗体陽性であることが最近注目されています。
ステロイドに抵抗性である抗AQP4抗体陽性視神経炎では、通常の視神経炎と比較して視力予後が悪く、 抗AQP4抗体を測定することで治療初期に予後を推察することができます。

抗AQP4抗体陽性であり、ステロイドパルス療法が無効の視神経炎は、 血漿交換療法など早急な処置が必要となることが多いため、眼科における抗AQP4抗体の測定需要が高まっています。

2. 抗AQP4抗体陽性の視神経炎の特徴

注意すべき症状および検査所見

抗AQP4抗体陽性視神経炎は、急激な視力低下や視野障害をきたして気づくことが多いです。
また50%程度の患者で眼痛 (もしくは眼球運動痛) を伴います。
入浴時や運動時などの体温が上昇するときに霧視や視力低下をきたすUhthoff (ウートフ) 徴候も重要です。
視野障害は通常の視神経炎でよく見られる中心暗点や盲点中心暗点だけではなく、 耳側半盲や同名半盲、水平半盲などの視野異常を併発することがあります。

抗AQP4抗体陽性視神経炎では通常の視神経炎と同様に、 患眼では相対的求心性瞳孔障害 (Relative Afferent Pupillary Defect;RAPD) が陽性となり、 造影MRI検査で視神経に沿って造影効果を認めます。
特発性視神経炎では今後急激に視力低下をきたす可能性があり、 特発性視神経炎だと診断された場合は全例に抗AQP4抗体を測定すべきだと考えます。

抗AQP4抗体陽性視神経炎の臨床症状 遠藤, 他. 抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床調査. 日眼会誌, 118 (9) : 751-8, 2014.

抗AQP4抗体陽性視神経炎の疫学

通常の視神経炎よりやや高齢で、圧倒的に女性に多い (男女比1:9) という特徴があります。
特発性視神経炎の10%程度で、血清中抗AQP4抗体が陽性になると考えられています。

球後視神経炎の形をとることも多く、視神経乳頭の発赤腫脹をきたさなくても 抗AQP4抗体陽性視神経炎を疑ってみる必要があります。
また片眼から両眼性に至ることもあります。 このタイプの視神経炎は、ステロイド治療に対して抵抗性であることが知られています。

鑑別診断として重要な視神経障害

視神経障害が疑われたら、問診でエタンブトールなどの視神経障害をきたす薬物を内服していないかどうか、 栄養障害をきたすようなダイエットを行ってないかどうか、 梅毒やウイルス疾患に罹患していないかどうかを併せて検討すべきだと思います。

これらの視神経炎 (症) が否定されたら、特発性視神経炎の可能性が高くなります。
診断フローチャートを別に示します。

特発性視神経炎の診断フローチャート 資料提供:株式会社コスミックコーポレーション

梅毒などの感染性視神経網膜炎はステロイド投与により一旦良くなりますが、 原疾患を治療しないと再発して難治性になります。また圧迫性かどうかを鑑別することも必要です。

眼窩腫瘍や特発性眼窩炎症に付随する視神経症、副鼻腔炎などに続発する鼻性視神経症は画像診断で鑑別する必要があります。 特発性視神経炎は自己免疫機序により発症することが多く、多くはステロイドパルス療法で治療可能です。
逆を言えば、ステロイドパルス療法をしても軽快しない、 感染性視神経炎、圧迫視神経症、中毒性視神経症、栄養障害性視神経症などが鑑別として重要になります。

圧倒的に女性に多い疾患が抗AQP4抗体陽性視神経炎だとすると、 若年から壮年男性に視神経症をきたすLeber遺伝性視神経症も鑑別する必要があります。
これには家族歴の有無の他、最終的には遺伝子診断が必要となります。

なお、甲状腺疾患や糖尿病でも視神経症をきたすことがあります。
甲状腺視神経症や糖尿病視神経症は通常の視神経炎に比べて軽症であることが特徴で、 ステロイド治療を必要としないことも多いです。

一般的な視神経炎に比較して、比較的高齢に多い抗AQP4抗体陽性視神経炎では虚血性視神経症も鑑別する必要があります。
虚血性視神経症は、高齢で片眼性のことが多く、視神経は蒼白浮腫であり、部分的な浮腫のこともあります。 虚血性視神経症の病因には生活習慣病も関与していることが多く、糖尿病や高脂血症の有無も確認しておく必要があります。
最も重要な鑑別は、MRIにおいて虚血性視神経症では視神経に沿って造影効果がみられないことです。

3. 治療および再発について

一般的な視神経炎ではステロイドパルス療法による治療がよく行われています。
ステロイドパルス療法の適応となる視神経炎は、造影MRI検査で視神経に沿って造影効果が認められる場合に限られます。 単純MRIでは視神経萎縮でも高信号になり、視神経炎と判別しにくくなってしまう問題点があります。

抗AQP4抗体陽性視神経炎ではステロイド療法が効く症例もありますが、無効な症例が多く、 最初に行ったステロイドパルス療法で視力改善が認められなかったら、血漿交換療法や大量免疫グロブリン療法など、 次の治療を考慮することが大切です。
ただし、視神経炎に対して血漿交換療法や大量免疫グロブリン療法は保険適応外であり、 その点に注意して治療を推し進めていく必要があります。

治療プロトコール 資料提供:株式会社コスミックコーポレーション

症例によっては視神経炎の再発を繰り返し、徐々に視機能が低下することもあるため、 再発を起こさせない治療法も考慮する必要があります。

4. ELISA法とCBA法との違いについて

現在、本邦における抗AQP4抗体測定は、ELISA法と細胞を用いた測定 (Cell based-assay:CBA) がなされています。 ELISA法を用いた抗AQP4抗体測定は保険収載されている検査であり、視神経炎において簡便に測定することができます。

CBA法は、保険収載されておらず金銭面の負担が大きいですが、感度、特異度ともにELISA法より優れた方法であるといえます。 このため、臨床的にステイロド抵抗性で、抗AQP4抗体陽性視神経炎だと考えられる症例において、 ELISA法で抗AQP4抗体が陰性となり、より正確に測定したい場合に対してCBA測定が必要となります。

受託要綱

受託要綱

保険算定上の条件

本検査は、ELISA法により視神経脊髄炎の診断 (治療効果判定を除く。) を目的として測定した場合に算定できる。